いつも笑顔で!(「水平線の先にある夢」の続きブログ)

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暗闇坂の人喰いの木

島田荘司の作品はずっと前に読み止まっていた。
ちょうど島田荘司本格ミステリー論を展開して大作を書き始めたところで止まっていた。

この「暗闇坂の人喰いの木」はそんな大作シリーズの第一弾で長編として650ページを超えるのでなかなか読むのが大変だなという思いと、友達など読んだ人の感想が今一つだったからだった。

しかし、先日、「島田荘司読本」という解説本のようなエッセイの中で、
この本以降の解説を読んだことからついに読もうと決心して読んでみた。

久しぶりの島田作品はなかなか懐かしい感じもあった。

印象に残ったシーンをあげてみる。

まずは、石岡君にアプローチしてきた女性が石岡君の身の上を聞くシーン。
「30過ぎの女性の結婚に対する焦りが理解できないのか?」
という御手洗の言動を読んで、久々に島田荘司の女性の描き方に懐かしむ思いがした。


それから過去の死刑の事例に関する記述。
これは本編と直接関係ないものの、この頃から島田氏の死刑というものに対する
並々ならぬ執着が感じられた。
このあたりは書きたいことを書いているという印象。


そして、ついに御手洗シリーズ初の海外へ飛び立つシーン。
これも本編よは関係ないもので、ロンドンからインヴァネスまでを飛行機ではなく
列車で移動して、どうして飛行機じゃないのかと思っていると、
イギリスの美しい田園風景を石岡君に見せたいという理由で日本には見られなくなった
風景描写を印象深く綴る。

僕もイギリスの田舎の風景を思い出すとすごくその情景はいいのはわかる。
しかし、敢えて都市論に傾倒する島田氏なので、その国づくりというか街づくりというか
そういう風景に対する国の考え方の違いを書きたいのだなと強く感じるシーンであった。


そして、この作品の特筆すべきシーンは何と言っても松崎レオナ嬢が初登場することだろう。
スタイル抜群のモデル出身で世界的女優にまで上り詰めるこの美しい女性は
島田作品にたびたび登場する美しくも上品で贅沢な女性というイメージで
これはもう島田氏の理想とする女性像なのではないかと勘ぐってしまう。

知的でちょっと高貴で生意気だけど上品でとびきり美しい。
そういう男を惹きつける魅力的な女性が好みなのだろう。

レオナは今後の作品にもたびたび登場することになるらしいので楽しみではある。


そして
ネス湖を見降ろす家のトリックといいい、暗闇坂の家のトリックといいどちらも
これまでの島田作品のような奇抜な仕掛けであり、やっぱり島田作品だなと思わせてくれた。

作品としては、それまでの島田作品よりも世間では低評価するほどのこともないほど面白いものであった。
ただ、この作品の前に「本格ミステリー論」で物議を醸したことが影響したのか、
必要以上に雰囲気づくりのために過剰な情景描写が多いことと、本編に関係のない余計な描写が多すぎるため若干読みにくくページ数が多くなっていることが重く感じた。

それと最後にまたしても「手記」。
御手洗シリーズの代表作「占星術殺人事件」「異邦の騎士」でも中心的役割をした手記が今回も最後に登場して作品全体をまとめる役割を果たしている。

島田作品と言えば「手記」という印象がこれでかなり強くなった。